木曜レジオ

恥の多い人生ですね(達観)

教えて!脳波博士!!第1回

怖いよぉ怖いよぉ

どうしたの恣意太(しいた)くん

あ、弥冨ちゃん!この間脳波とかいうものを初めてみたんだけど、複数の折れ線が大量に並んでて意味がわからなさすぎて怖かったんだよぉ

なるほどそれは怖いわね。でもその恐怖は未知であることからくる恐怖なのよ、恐怖を乗り越えるために脳波のことを識る必要があるわ!

 

えーん、でもどうしたらいいの?

 

任せて、近所に住んでいる怪しげな何してるかわからないおじさんの家の表札に脳波博士って書いてあったからきっと詳しいはずよ、会いに行きましょう!!

 

新たなる未知(恐怖)!!!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ごめんくださーい!!脳波について教えてください!!

 

ほっほっほどうしたのかな?

 

脳波がわからなさすぎるから教えてください!!

 

 

どこがわからんのかな??

 

 

大体全部わかんないよう!!脳波のその意味も、そもそも何をみてるのかも、測る意味もわからないよ!!

 

ふーん・・・

 

ふーんって、教えてくれないの?博士なのに

 

 

だって、ワシ別に脳波に詳しくないもん。ワシの名前もノウナミヒロシというだけで脳波とは何の関係もないんじゃ。

 

じゃあその博士っぽい帽子は!?

 

 

婚活で高学歴アピールが有利と聞いたからじゃ。白衣は清潔感のために着ているだけじゃ。特に研究もしていない

 

怖い!!

 

安易に人に教えを請おうとするからこうなるのよ恣意太くん、反省しなさい

 

もう脳波なんて懲り懲りだよう!!

 

 

登場人物紹介

 

椎名恣意太 (しいな しいた)髪の毛のセットに毎朝ワックスを一本使い切る

 

弥冨或歩亜子 (やとみ あるふぁこ)趣味で近隣住民の名簿を個人的に作成している

 

脳波博士(のうなみ ひろし)脳噛ネウロとイントネーションが同じ

 

患者かもしれない第9心 読書記録 7冊目「精神病というこころ」

つぎはぎの僕らは

ふとした時に入れ替わるのさ

近づけば誰かを傷つけるから触れることもできず

 

                 パスピエ「影たちぬ」より

 

はい7冊目。

前回はこちら

 

structural-alien.hatenablog.com

 

月に一回当直業務をしている先の先生に「精神病理にも少し興味がある」という話をしたら貸してくださった本がこちら。

 

 

初版は2000年というところで、20年以上前の本であることを踏まえたうえで読まなければとは思ったうえで読んでみた。

 

目次

 

概要

以下Amazonの説明欄から引用

 

精神科臨床あるいは精神保健に関連した領域、また教育や福祉、カウンセリング、さらには司法に携わる方々、そしていうまでもなく患っておられる当人やその御家族など周囲の方々ならまずもって、この精神病状態というこころのありかたに出会うはずです。これを理解するための糸口を提供し、無用の不安や戸惑いなしに対応するための心の準備をお手伝いすること、それを本書は目指しています。

 

 目次

第1章:精神病という状態 第2章:移り変わり行く不安 第3章:自分がなくなる恐怖第4章:生々しい怯えとの格闘 第5章:壊れていくこころ、そして悲しみ 補章:精神病状態への心理療法的アプローチ

 

対象読者

統合失調症患者、それも入院を要するような患者とかかわる医師がメインと思われる。日常的なふれあいの場面への言及もあることから看護者も念頭にはあるものと思われる。

 

骨太度

タイトルのいかめしさと比較すると案外平易な内容。いかにも精神病理だなーという話もちらちら出てくるが。


読んだ目的

おすすめされたので。そして興味もあったから。


感想

冒頭でも書いたように、20年以上前の本である。と同時に精神病理の本でもあり、それって本当に「そう」である証拠とかあるのか?という疑問が常に読みながらも付きまとった。だが、患者の内面という確認しようがないものへの言及であるがゆえに20年まえのものでありながら、古臭くなるわけではないと思われる。一つの解釈、説明体系として、精神病理学はおそらく有用なものなのだろうと感じた。「投射」の概念は以前から知っていたが、がっつり精神病理的な文脈で語られるのを見るのは初めてだったので学べるいい機会を得られたと思った。

不安の変容という視点から統合失調症の経過過程を描出しているのは、ある種、血の通った描写に思えた。

 

 フック

こういう系統の本にありがちなのか、生の患者との会話が描かれているのがありがたい

。またその問答の背後にある意図も描かれているのがモデルケースとして参考になった。【p166-171のあたり】これは、以前紹介した、「精神療法の第一歩」もそうだった。


 僕にとって想定される本書の内容を使う場面

こう、臨床ですぐに使えるなにかまとまった知識が得られる類の本ではない気がするが、精神病理的な見方、あり方があるということをそこまで肩肘張らずに知れるのはいいのではないだろうか。

 

 

影たちぬ - song and lyrics by PASSEPIED | Spotify

患者かもしれない第7心 読書記録5冊目「実践高次脳機能障害のみかた」

あの日夢を乗せて打ち上げた

ロケットの軌道を今日も把握してるか

離陸に歓喜の声を上げて

それっきり終わってはいないかな

          日食なつこ「エピゴウネ」より

夏バテで夜はいつもぶっ倒れています。早く秋が来ないかな。木曜丸九です。 精神科関連のことを文脈もなく記録していくこのシリーズ、前回はこちら

structural-alien.hatenablog.com

さて今回は前回に引き続き書籍の紹介。紹介するのはこちら。

タイトルがもう完全に「それちょうど欲しかったやつ」である。 失語だとか失行だとか。医学生の頃からいつもこんがらがっていて、そろそろそんなことも言ってられないし、実際頭の中を整理したくなってきたので今回購入に至ったわけである。

目次

概略

中外医学社ホームページから引用

高次脳機能障害に出会ったら,どう評価し対応したらいいのか.難解と思われがちな領域を,その本質から理解できるよう,各エキスパートがやさしく丁寧に解説した.特殊なトレーニングや検査キッドがなくても評価ができるように,各章の冒頭にベッドサイドで把握できる評価法を紹介し,その一部は付録のonline materialとして収載.必要以上にかまえることなく,気軽に実践的な知識と技術を学べる新しいテキストである.

目次

Chapter 1 認知機能の診察と所見の解釈 〈西尾慶之〉  1.はじめに:認知機能の評価を日常診療のルーチンに加える  2.認知ドメイン(cognitive domains)  3.認知ドメイン間の依存関係と症状―病巣対応   A.言語と視覚認知の関係   B.記憶と他の認知ドメインの関係   C.遂行機能   D.病変−脳部位対応のよい言語症状と悪い言語症状   E.視覚認知の障害:whatの障害とwhereの障害   F.注意  4.認知機能評価の実際:救急室における評価と一般外来/病棟における評価

Chapter 2 失語症 〈丹治和世〉  1.はじめに  2.言語の成り立ちについて  3.失語症とは何か  4.現在のBroca失語,Wernicke失語,伝導失語  5.概念にまつわる障害  6.症候の実際  7.診察の仕方  8.病巣の記述

Chapter 3 失読・失書 〈浜田智哉,東山雄一,田中章景〉  1.はじめに  2.読み書き障害の神経学的分類   A.非失語性・孤発性の失読/失書   B.失語性失読/失書   C.その他の高次脳機能障害による二次的な読み書き障害  3.読み書きの認知神経心理学的分類   A.表層失読/失書   B.音韻失読/失書   C.深層失読/失書  4.日本語の読み書きモデル  5.検査方法  6.最近の研究

Chapter 4 発語失行 〈飯塚 統〉  1.はじめに  2.AOSの概念,症候学の特徴  3.AOSを起こす疾患,病巣対応  4.症候の実際  5.検査方法  6.最近の研究

Chapter 5 失行とその周辺症候 〈早川裕子,小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念,分類,症候を起こす疾患,病巣対応   A.症候の概念   B.症候の分類   C.症候を起こす疾患   D.症候の病巣対応  3.症候の実際  4.検査方法  5.最近の研究

Chapter 6 聴覚性失認 〈二村明徳,小野賢二郎〉  1.はじめに  2.どのようなときに疑うか  3.両側の側頭葉に脳梗塞を発症し純粋語聾となった症例  4.聴覚性失認の検査の進め方   A.純音聴力検査と語音聴力検査   B.失語症検査   C.環境音認知検査   D.失音楽症の検査  5.聴覚性失認の分類  6.聴覚性失認の特徴   A.皮質聾   B.純粋語聾・言語性聴覚性失認   C.環境音失認・環境音認知障害   D.感覚性失音楽症  7.電気生理学・画像的検査

Chapter 7 構成障害 〈鐘本英輝,數井裕光〉  1.はじめに  2.症候の概念,分類,症候を起こす疾患,病巣対応   A.構成障害の概念   B.構成障害の病巣と疾患  3.検査方法   A.手指行為の模倣   B.単純な図形模写   C.複雑な図形模写   D.視覚認知の全般的な評価   E.組み立て課題  4.症候の実際  5.最近の研究  6.おわりに

Chapter 8 視覚性失認,カテゴリー特異的失認 〈成田 渉,西尾慶之〉  1.はじめに  2.視覚情報処理の神経生理学  3.視覚性失認   A.統覚型(知覚型)視覚性失認   B.連合型視覚性失認   C.統合型視覚失認   D.カテゴリー特異的視覚性失認  4.視覚対象認知の評価   A.主訴,病歴の聴取   B.診察   C.検査  5.症候の実際

Chapter 9 半側空間無視 〈太田久晶〉  1.はじめに  2.症状の概念,分類,症状を起こす疾患,病巣対応   A.症状の概念   B.症状の分類   C.症状を起こす疾患   D.病巣対応   E.鑑別症状  3.症候の実際  4.検査方法   A.ベッドサイドでの評価   B.机上検査   C.ADL評価  5.最近の研究   A.パソコンを用いた検査方法   B.線維連絡に基づいた病巣分析

Chapter 10 地誌的失見当 〈菊池雷太,赤池 瞬〉  1.江戸一目図  2.地誌的失見当  3.地誌的失見当にかかわる脳部位  4.楔前部と後部帯状回  5.評価方法  6.症候の実際  7.まとめと今後の展望

Chapter 11 病態失認 〈小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念  3.片麻痺に対する病態失認  4.盲・聾に対する病態失認(Anton症候群)  5.失語に対する病態失認  6.認知症における病態失認  7.病態失認の病態   A.全般性認知機能障害説   B.感覚入力遮断説   C.注意障害説   D.運動企図仮説  8.検査方法  9.最近の研究

Chapter 12 記憶障害 〈渡部宏幸,西尾慶之〉  1.はじめに  2.記憶・記憶障害の分類   A.保持時間の長さによる記憶の分類:短期記憶と長期記憶   B.記憶の内容による長期記憶の下位分類   C.時期によるエピソード記憶障害の分類  3.エピソード記憶の検査方法   A.記憶を評価する際の注意点   B.簡易評価   C.精査用記憶バッテリー  4.エピソード記憶障害の神経基盤と関連病態   A.海馬およびその周囲の内側側頭葉構造   B.間脳   C.前脳基底部   D.脳梁膨大部後域  5.その他の記憶障害   A.Alzheimer病における記憶障害   B.側頭葉てんかんにおける記憶障害   C.解離性健忘   D.作話  6.症候の実際  7.最近の研究   A.エピソード記憶の情報処理における海馬内の機能的差異   B.場所細胞(place cells)と格子細胞(grid cells)

Chapter 13 認知症 〈津本 学,小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念,分類   A.症候の概念   B.認知症の分類  3.検査方法   A.問診   B.スクリーニング検査  4.症候の実際   A.記憶障害が目立つ認知症   B.注意・遂行機能の障害が目立つ認知症   C.幻視が目立つ認知症   D.言語の障害が目立つ認知症   E.行動障害が目立つ認知症  5.最近の研究

Chapter 14 脳梁離断症候群 〈東山雄一,田中章景〉  1.はじめに  2.症状の概念,分類,病巣対応,症状を起こす疾患   A.症状の概念   B.症状の分類と病巣対応   C.症状を起こす疾患  3.症候の実際  4.最近の研究  5.おわりに

Chapter 15 前頭葉症候群 〈船山道隆〉  1.両側前頭前野損傷例の特徴  2.症候の概念,病巣対応,症候を起こす疾患   A.前頭葉は行為・行動に関わる   B.背外側部,内側部,眼窩部にそれぞれの機能がある   C.症候を起こす疾患  3.症候の実際   A.背外側部損傷   B.内側部損傷   C.前頭葉眼窩部  4.検査   A.遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)   B.ウィスコンシンカード分類検査   C.Frontal Assessment Battery(FAB)   D.Trail Making Test   E.Stroop Test   F.流暢性課題  5.最近の研究

Chapter 16 神経疾患に関連する情動障害および行動異常 〈馬場 徹,小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念と分類  3.症候を起こす疾患,病巣対応  4.症候の実際  5.情動障害・行動異常の検査法  6.最近の研究

対象読者

特に明記されているわけではないがおそらく対象にしているのは精神科医神経内科医のみならぬ更に広い範囲の医師、医療者を対象にしている。本文でも「おそらく多くの医療者にとって、日本語の不自由な外国人よりも失語を持つ方に接する機会のほうが多いはずである。外国人に対する医療対応を学ぶことと同様に、失語についての基本事項を理解しておくことが重要と言えるのではないだろうか」p16 と書かれている。京都人的な文脈で行くとかなりの皮肉交じりの言い方であることを邪推するが、それはまぁ考えすぎだろう。僕が京都の毒気に当てられているだけかもしれない。

骨太度

当然ながらそこそこ骨太。とはいえ臨床の場での実践を前提に書かれているので割愛するべき部分はそうと分かる形で割愛している。だから、実際の臨床には反映されない小難しい話の泥沼にはまることがないようにはなっている。

読んだ目的

冒頭で書いてしまった気がするが、そろそろ高次脳機能障害について整理したくなったからである。なんとなく神経内科の領域だと思っていたのだが、精神科の世界にもがっつり絡んでくるものであった。そのことに遅ればせながら気づき、改めて勉強しなおしているというわけである。高次脳機能障害はなんとなくの見よう見真似のふんわり評価は誰でもできるが、その奥にある障害のシステムを理解するには、その本質を汲み取れねばならないと言うことが本書でも書かれている。なんとなくに満足せず、治療的に意味のある評価ができるようになりたい。

感想

もちろん冒頭で述べたように必要に迫られて買った「実用書」であったのだが、読み物としても非常に面白かった。 第2章は失語症なのだが、その序盤で「言語の成り立ちについて」の説明があるのだ。これはおそらく内容的にソシュール言語学を下敷きにしたものであると思われる。最近僕は「ゆる言語学ラジオ」にはまっておりとてもタイムリーであった。こういった言語そのものへの洞察を踏まえた上で、失語症が語られるのは物語としてのダイナミズムがあるし、説明としてわかりやすい。 ある行為が出来なくなったとき、その内部で何が起こっているのか。それをベッドサイドレベルで評価し、一方で検査でも定量的に評価する。その橋渡しになる内容であった。ベッドサイドで生の患者がいる場でそこで何が起こり何が「起こせなかった」のか。それを解剖学的にも、歴史背景的にも多くの側面から解説しながらもくどくなく。可もなく不可もなく、手ごたえのある形で解説してくれている。 それまでなんとなく使っていた様々な用語に関して簡潔な解説がされており、それを拾い読みするだけでも十分価値がある。

フック

認知機能の評価についての解説と言えばそれぞれの項目についての無味乾燥な解説が羅列されるイメージがないだろうか。 本書では救急室や外来それぞれの場面に応じた認知機能評価について解説がある。p11- もうこの時点で本書がいかに実践の書であるかがわかるかと思う。  まず初めに認知機能のドメインを整理し、それぞれの影響関係を解説した後に、その関係性をもとに場面に応じた認知機能の評価項目が解説される。なぜそれらが優先されるのか、根拠を持った上で評価項目の取捨選択ができるのだ。NIHSSの検査項目ってそういう理由でああなってたのか!という発見がある。 ちなみに、救急で優先的に評価すべき認知機能のドメインは、汎性注意の障害/意識障害・言語・視覚認知 であるとされる。その根拠は是非本書を読んで確認してほしい。

僕にとって想定される本書の内容を使う場面

1度読み物として読んだ後、おそらく臨床の場で実際に項目ごとに参照してゆくことになると思われる。

エピゴウネ - song and lyrics by Natsuko Nisshoku | Spotify

患者かもしれない第6心 読書記録4冊目「認知症高齢者とセクハラ」

3分の1はあなたのため  3分の1は誰かのため  残りは自分のため その半分は生きるため  青くしかし満ちた小数点以下 切り捨ての日々を綴れ

     G-FREAK FACTORY「ヴィンテージ」より

久しぶりに書くこのシリーズ。 前回はこちら。 structural-alien.hatenablog.com

今回は薄い本。と言っても同人誌ではないけれど。完全にタイトル買いしたこちら。 認知症高齢者とセクハラ (Nursing Todayブックレット)

概略

以下Amazonの説明文から引用

認知症を患うと、ケア提供者に卑猥なことを言ったり、体を触ったりといった性的逸脱行為がみられることがあります。 本人は本能に基づき行動しているため、セクハラをしているという意識・自覚はなく、注意されたり拒絶されても効果がないばかりか、ケアの拒否もみられます。 一方、そのような行為を受けた側は、病気が原因だとわかっていても、傷ついたり嫌な思いをすることは多いでしょう。 認知症高齢者の性とハラスメントに関する問題にどう対応すればよいのか──専門家と高齢者看護・介護の現場で働く専門職が自身の経験を踏まえ考察しました。

目次

認知症高齢者の性的行動──荒木乳根子 介護現場におけるハラスメントの実態と防止について──村上久美子 認知症高齢者の性的逸脱行為への対応──堀内園子 認知症高齢者のセクシュアリティに関する倫理的配慮──戸谷幸佳 事例から考える 認知症高齢者の性的逸脱行為への対応──岡田まり、横井真弓、塙真美子、田中聡子 (column)利用者からのセクハラに一人で悩まない──北條正崇

対象読者

高齢者医療に携わる全ての人間であろう。 基本的に内容は看護師さん、介護士さんなどの介助者目線で描かれることが多い。 ただ、チームリーダーとしての医師からの目線もあり、決して看護師だけを対象にしたものではない。

骨太度

骨太でありながら読みやすい。骨太というか、知的好奇心を満たすという目的よりはまさしく現場で起こっていることそのものが描かれているので、そういう意味で重たい内容だが、概念的に高度に複雑なものは出てこない。

読んだ目的

冒頭で書いた通り、タイトルに惹かれて読んだ。実際初期研修の時に少し関わりのあった患者によるセクハラが問題になった事例があった。あの時特に僕が何かをしなければいけない状況ではなかったが、今後、もしも自分の担当患者で同様の事例が起こった際にどうしたらいいのか。その参考になるかと思って読んだ。

感想

後半は特に生々しいレポートであった。うまくいった事例も、いかなかった事例もある。実際の現場で起こること、その時の医療者の胸中、彼ら彼女たちの手探りでの努力の様が描かれている。 本書に革命的にクリアカットな対処方法が描かれているわけではない。だが、読めば事前に知ることができるし、予想もできる。 医師は時として、チームの舵取りを行う立場になり、その時にチームメンバーである看護師をいかに守るかということが大事になるのだということをこの本を読んで学んだ。中々に教科書的には描けない部分だろうし、読めてよかったと本当に思う。

フック

今回から追加した項目だが、「読んでみたい」となるポイントをいくつか紹介しようと思う。 日本の60-70代の独身者で、「交際相手がいる」「交際相手が欲しい」と回答する割合はどれくらいあるだろうか。 男性で九割、女性で四割、との結果があるそうだ。我々が思う以上に高齢者の性への関心は高い、と言うことがまず本書では強調される。 本書の中で、「性的逸脱行為のある人にかかわる際の八つの原則」p20が提言される。その原則4が以下のものである。 自分の思いを言語化する力を蓄えておきましょう。 この項目自体はそれほど深掘りされないのだが、「認知症の高齢者と関わる上で重要なコミュニケーション技術」であると語られる。その場、その場で言うことが大切であり、そのためには日頃から自分の気持ちを表現する言葉を蓄積しておく必要がある。これは結局、日々何が起こっているか、今後起こっているかを整理しておかないとできないことでもあり、また、自分の中に起こってくるある種の陰性感情をコントロールすることへと繋がってゆくものだと感じた。 細かい詳細は語らないが、本書では以下の質問への回答が描かれておりとても参考になった。この質問への専門家の答えが知りたい、と言う方は是非読んでみては如何だろうか。 「ケア中に認知症高齢者が自慰行為を始めます。どうしたら良いでしょうか」 「認知症高齢者が、夫と毎晩やっているの?股間は使わないと腐るわよ、などと卑猥なことを言ってきます。どうしたら良いでしょうか」

僕にとって想定される本書の内容を使う場面

今後高齢者にある程度以上関わることはほぼ必定であるので、必ず役に立つ場面が来るだろうと思っている。 また、その時に医療者チームを守るために何ができるだろう、と考えるきっかけになった。

ヴィンテージ - song and lyrics by G-FREAK FACTORY | Spotify

患者かもしれない第5心 読書記録3冊目「診察室の陰性感情」

良い人ぶってる自分の姿が何だかあいつみたいでした

八つ裂きにでもしてやりたいのは、本当はこっちみたい      Peg 「夜になったら耿十八は」より

ふー、1週間が早すぎる。 雨が降ったりじめじめしたりと何処となく夏が近づいてきましたね。 読書記録3冊目。前回はこちら患者かもしれない 第3心 読書録2冊目 大人の発達障害診療マニュアル - 木曜レジオ 読んだのはこちら 診察室の陰性感情 加藤温 著 診察室の陰性感情

概略

以下Amazonより引用

医療現場における陰性感情の成り立ちから対処法まで解説。

医師が患者に対して陰性感情を覚える瞬間はあらゆる場面に存在し、陰性感情が生じることにより、その場は硬直し、診療へ悪影響を及ぼしてしまいます。

本書では医療現場、特に外来診療で発生する陰性感情の成り立ちから対処法、そもそも陰性感情を生じさせないためのテクニックについて解説しています。 1章から5章までは総論として、感情の成り立ちから精神科医特有のスタンス、話の聞き方等を解説し、6章では各論として個別症例毎に生じやすい陰性感情について解説します。また応用編として7章では対患者ではなくチーム医療で生じる陰性感情への対象方を解説します。

外来診療や医療現場で陰性感情が生じることが多いと感じている方、またこれから外来診療へ携わる方は是非、本書を手に取ってみてください。 きっと自身の診療スタイルを見直すきっかけになると思います。

目次

はじめに

第1章 感情について 1.感情とは 2.感情の成り立ち 3.感情の特性 第2章 医療現場における陰性感情 1.診察場面で起きていること―陰性感情の発生― 2. 陰性感情があると何が問題なのか 3.いわゆる「難しい患者」とは 第3章 精神科医のスタンスと診療 1.精神科医と一般科医の違い 2.精神科医の患者の診かた 第4章 話の聴き方の基本 1.傾聴・受容・共感とは 2.話を聴く際のポイント 第5章 陰性感情をどうしたらよいのか 1.精神分析と転移 2.逆転移と陰性感情 3.陰性感情が生じる3パターン 4.陰性感情にいかに対応するか 第6章 各論 1.幻覚・妄想 2.うつ病 3.身体症状へのこだわり 4.パニック障害 5.アルコール関連問題 6.発達障害 7.パーソナリティ障害 8.自殺念慮のある患者 9.怒っている患者 10.話が長い患者 11.いろいろと「詳しい」患者 第7章 チーム医療における陰性感情 1「.信念対立」という考え方 2.オープンダイアローグからみるチーム医療 3.多元主義の有用性

対象読者

精神科医に限らない医師全般ですね。しかも、冒頭を読む限りビギナーとベテランどちらも対象にしているようです。実際そもそもの話の聞き方にはじまり、今まで無意識にしていたことを意識化することができると思われます。 救急や内科外来で出会うであろう精神疾患患者への「ありがちな」陰性感情についてもよく触れられています。

読んだ目的

ぶっちゃけジャケ買いの要素も強いです。めちゃデザイン良くないですか?勿論それだけではなくて、「陰性感情」というよく聞く単語をかなり無造作に使ってるなーと思い、またこの概念に絞った本というのが面白いと感じて読むことにしました。

感想

恐ろしく読みやすかったです。悪戯に小難しい書き方をするわけでもなく、それだけではなくて読み応えのある内容でした。 陰性感情についてひたすら書かれている本ではあるのですけれど、医師に陰性感情が出てくる原因の一つとして、「知らないこと」を筆者が取り上げます。それゆえに、陰性感情を煽る主訴についての丁寧かつわかりやすい解説がされているのがこの本の素晴らしい点だと思います。 例えば幻覚や妄想についての簡潔かつ明快な解説があり、僕は妄想についてかなり曖昧な理解をしていたのだな、と冷や汗が出ました。わかったつもりの概念についてきっちりと言語化するのは大切ですね。 改めて勉強の必要性を感じました。 精神科医になろうと思ってるわけでもないけど、ちょっと興味ある人、みたいな人にとってもかなり良い入門書なのではないでしょうか。

僕にとって想定される本書の内容を使う場面

陰性感情そのものはおそらく医師であればずっと付き合わねばならないものだと思います。なので、使う場面はかなり多いと思います。 この本をきっかけに精神科でよく使う単語の正しい定義を勉強しようと思いました。

夜になったら耿十八は - song and lyrics by Peg | Spotify

患者かもしれない 第3心 読書録2冊目 大人の発達障害診療マニュアル

まずはアイコンタクトからにしないと

  君の視線にちょっと慣れないと

    シンガロンパレード「UFO」より

ゴールデンウィーク始まりましたね。なんとか前回宣言通りにぼちぼち勉強してます。 前回はこちら患者かもしれない第2心 読書録1冊目 精神療法の基本 支持から認知行動療法まで - 木曜レジオ 今回読んだのはこちら。

大人の発達障害診療マニュアル 第2版 姜昌勲 著 大人の発達障害診療マニュアル 第2版 7つのステップでわかる大人のASD・ADHD

概略

以下Amazonから引用

「大人の発達障害」は難しい,ややこしい.そう思っていませんか? その先入観は今すぐ捨てて下さい.大人の発達障害の診療は精神科医なら誰でも得意になれます.ASDを含む大人の発達障害を診るために必要な「正しい知識」と「少しのコツ」を7つのステップにまとめた好評書をアップデートし,WAIS-IV知能検査など実務状況の変化にも完全対応,さらに読みやすくなりました.日常臨床を豊かにするヒント満載の一冊です!

目次

第1のステップ 正しく知る 発達障害について勉強する 第2のステップ 情報を集める 生育歴とチェックリスト、心理検査、第三者からの問診 第3のステップ 診断する DSM-5とうまくつきあう 第4のステップ 見逃さない・間違わない 合併と鑑別を大事にする 第5のステップ 必ず精神療法を行う 聞くだけでなく具体的な行動処方が大切 第6のステップ 正しく薬を使う 薬は第一選択ではない 最後のステップ いざ、診療へ!

対象読者

全ての精神科医に向けて、と思われます。本文の中でも統合失調症よりも発達障害の方が有病率が高いということに触れられています。精神科医であれば診れるべき疾患であるとの筆者の思いを感じました。

読んだ目的

今のところ、僕が精神疾患の中でも特に興味があるのが発達障害です。特に大人の。 僕自身がおそらく特性を持っていること、そして有病率の高さから患者が多くいることから興味を持っています。なので、なにかとっつきやすく、よくまとまっている新しい本がないかと書店で探して行き着いたのがこの本でした。

感想

とても読みやすくまとまった本でした。 発達障害の定義、歴史に始まり、診察室での病歴聴取の具体的な方法まで書かれていたのはとても参考になりました。 そして中でも、発達障害は様々な精神疾患との合併が多く、それを前提とした、様々な精神疾患との鑑別ポイントと合併があった場合の診療へのアドバイスが描かれていたのがとても良かったです。パーソナリティ障害とASDの鑑別、統合失調症発達障害の鑑別などいつも疑問に思っていたことの多くのことに触れられていて腑に落ちることが数ありました。 変に固くなく、本当に実際の臨床に寄り添った本だと思います。

僕にとって想定される本書の内容を使う場面

精神科に於ける全ての問診で使える、使うべきアイデアが散りばめられていました。それは、発達障害がコモンなもので鑑別として頭に置いておくべきものでもありますし、鑑別のあり方や、家族へのアプローチなどより一般性のある話も多く描かれていました。

UFO - song by シンガロンパレード | Spotify

患者かもしれない第2心 読書録1冊目 精神療法の基本 支持から認知行動療法まで

その心の奥を掴んで揺さぶるものは何?
  考えているだけで日が暮れる
     苦しくて切なくて楽しくて日が暮れる


       GO!GO!7188「神様のヒマ潰し」より

さて、ゴールデンウィークですね。毎年勉強しようと思って果たせませんが、今年こそはなんとかやります。(やりたい。)

さて、前回の記事患者かもしれない(仮)第初心 - 木曜レジオでも体系的な学びが、という話をしていましたが、ある程度の本を通読すると言うことが僕には必要だと考えています。事実として読む必要もありますし、読むための体力・胆力、吸収するための訓練が必要です。僕は要領が良い人間ではないので、千本ノックじゃないですけど、取り敢えず数読んで慣れてくのも必要なのかなーと思ってます。とは言え、がむしゃらに読むのもアレなんで、なんらかのルールを設定したいと考えています。そのうちの一つとして、このブログで簡単にアウトプットしようかと思ってます。

読書のルール

アウトプットのルールとして、以下の項目を最低限書き出すことにします。
書名、著作者、Amazonなどに掲載されている概略、目次、(書いてあれば)対象としている読者、僕がなんのために読んだか、感想、今後どう言う時に使えると思われるか。


そんなわけで景気付けに4月初めからチマチマと読んでいた本を読み終わったので紹介したいと思います。紹介というか読書感想文というか。

精神療法の基本 支持から認知行動療法まで
堀越勝 野村俊明 著

精神療法の基本: 支持から認知行動療法まで

概略

以下Amazonから引用

臨床医が外来患者を診療する際に役に立つ精神療法の理論やテクニックについてまとめた解説書。精神療法の位置づけといった基礎的な内容から、患者とのラポートづくりや効果的な面接の技法といった実際の治療でのポイント、臨床でみかける機会の多い疾患の特徴と介入方法まで、米国での長い臨床経験をもつスペシャリストが網羅的に解説。限られた時間でより有効な診療を行う手助けとなるであろう1冊。

目次

第1章 精神療法とは何か?

  • はじめに
  • 簡易な精神療法を実施する意義
  • 精神療法化の方法と手順
  • 簡易精神療法の介入ステップ
  • 簡易精神療法の効果
  • ステップ1:患者との関係づくり
  • ステップ2:「どうされましたか?」患者の問題に気づく
  • ステップ3:患者に問題を気づかせる
  • ステップ4:介入作業を実施する
  • ステップ5:モニター
  • ステップ6:再発予防と終結

第2章 対談:精神療法の疾患別アプローチ

第3章 精神科外来における精神療法

対象読者

僕の読み落としかもしれないが、はっきりと明記はされていない。たが本書の目的の一つは「精神科診療を精神療法化する」とのことであり、精神療法に関わる心理士と精神科医を対象としたものであると思われる。特にレジデントに向けて書かれたわけではなさそうだが非常にわかりやすい文章であった。

読んだ目的

僕は研修医時代、動機付け面接(MI)についての教授を受け、何度か対面での練習も行っていました。勿論それだけで、臨床の現場で使えるようになったなどとは思ってませんし(ある種の方位磁石にはしています)、精神療法に関してはまともに本を読んだこともなく、かと言ってあんまりにも分厚く硬い本は読めない(読みたくない)。と言うことで本屋をぶらついた時にこの本を見つけたのだ。何より目次の1章にあるように、患者との関係づくりレベルのことから解説があるのが琴線に触れた。

感想

内容のまとめなんかしても、劣化版の誤った内容になるだろうし、何を書けばいいんですかね。
なので感想です。本書の著者は本文でも触れられるようにアメリカでかなりの修行を積んできた人で、日本の現場との比較が何度も行われます。裏返せば、現在の日本の精神療法の実践・教育体制に限界を感じているのでしょう。
この本の素晴らしいところは、患者とのコミュニケーションのごく基礎的なところからきっちり解説してくれているところです。それこそ「挨拶」の持つ意味から。
これを読んで以降、僕は自己紹介をきちんと意識的に行うようになりました。「DSM-5の手引き」の冒頭の面接の仕方、みたいな部分にも冒頭での自己紹介が盛り込まれていますし、当たり前に重要なことですが、うっかり見過ごしかねないことなのかもですね。
本書でも衝撃的だったのは、(短期での評価とは言え)精神療法を行うにおいて、四大治療要素の効果に占める割合のはなしです。本文p15参照。
四大治療的要素として、患者要因と治療外の出来事、関係要素、期待・プラセボ効果、治療テクニックと介入モデル要素の四つがあります。この内、どの介入モデルを用いるかと言う四つ目の要素(治療テクニックと介入モデル要素)は治療効果の内の15%を占めるのみです。コレが必ずしも小さいわけではありませんが、セラピストとの関係性(関係要素)、例えば共感、温かさ、受け入れること、などが治療効果に占める割合は30%なのです。本文の言葉に倣えば「かなり極端な言い方をすれば、テクニックと介入モデルの要素が充分でないとしても、関係構築が充分であればそれなりの効果を生むことが可能となるはず」なのだ。いかに患者との関係構築が重要であるかと言うことを僕は思い知りました。
それ以降の内容も各疾患に対して精神療法を行う際に気をつけるべきことなどかなり実践的な内容が含まれていました。

僕にとって想定される本書の内容を使う場面

まだ僕が精神療法を患者に行う場面はしばらくこないでしょう。訓練なしに行われる精神療法はあまりに侵襲的で危険なものだと思います。ただ、それ以前の介入への下地作りとしての患者との関係作りは投薬治療や日常の診療においていつでもどこでも重要になるものだと考えています。なので、患者との関係づくりを本書の内容を道標に大切にしていきたいと思います。

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