木曜レジオ

恥の多い人生ですね(達観)

患者かもしれない第7心 読書記録5冊目「実践高次脳機能障害のみかた」

あの日夢を乗せて打ち上げた

ロケットの軌道を今日も把握してるか

離陸に歓喜の声を上げて

それっきり終わってはいないかな

          日食なつこ「エピゴウネ」より

夏バテで夜はいつもぶっ倒れています。早く秋が来ないかな。木曜丸九です。 精神科関連のことを文脈もなく記録していくこのシリーズ、前回はこちら

structural-alien.hatenablog.com

さて今回は前回に引き続き書籍の紹介。紹介するのはこちら。

タイトルがもう完全に「それちょうど欲しかったやつ」である。 失語だとか失行だとか。医学生の頃からいつもこんがらがっていて、そろそろそんなことも言ってられないし、実際頭の中を整理したくなってきたので今回購入に至ったわけである。

目次

概略

中外医学社ホームページから引用

高次脳機能障害に出会ったら,どう評価し対応したらいいのか.難解と思われがちな領域を,その本質から理解できるよう,各エキスパートがやさしく丁寧に解説した.特殊なトレーニングや検査キッドがなくても評価ができるように,各章の冒頭にベッドサイドで把握できる評価法を紹介し,その一部は付録のonline materialとして収載.必要以上にかまえることなく,気軽に実践的な知識と技術を学べる新しいテキストである.

目次

Chapter 1 認知機能の診察と所見の解釈 〈西尾慶之〉  1.はじめに:認知機能の評価を日常診療のルーチンに加える  2.認知ドメイン(cognitive domains)  3.認知ドメイン間の依存関係と症状―病巣対応   A.言語と視覚認知の関係   B.記憶と他の認知ドメインの関係   C.遂行機能   D.病変−脳部位対応のよい言語症状と悪い言語症状   E.視覚認知の障害:whatの障害とwhereの障害   F.注意  4.認知機能評価の実際:救急室における評価と一般外来/病棟における評価

Chapter 2 失語症 〈丹治和世〉  1.はじめに  2.言語の成り立ちについて  3.失語症とは何か  4.現在のBroca失語,Wernicke失語,伝導失語  5.概念にまつわる障害  6.症候の実際  7.診察の仕方  8.病巣の記述

Chapter 3 失読・失書 〈浜田智哉,東山雄一,田中章景〉  1.はじめに  2.読み書き障害の神経学的分類   A.非失語性・孤発性の失読/失書   B.失語性失読/失書   C.その他の高次脳機能障害による二次的な読み書き障害  3.読み書きの認知神経心理学的分類   A.表層失読/失書   B.音韻失読/失書   C.深層失読/失書  4.日本語の読み書きモデル  5.検査方法  6.最近の研究

Chapter 4 発語失行 〈飯塚 統〉  1.はじめに  2.AOSの概念,症候学の特徴  3.AOSを起こす疾患,病巣対応  4.症候の実際  5.検査方法  6.最近の研究

Chapter 5 失行とその周辺症候 〈早川裕子,小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念,分類,症候を起こす疾患,病巣対応   A.症候の概念   B.症候の分類   C.症候を起こす疾患   D.症候の病巣対応  3.症候の実際  4.検査方法  5.最近の研究

Chapter 6 聴覚性失認 〈二村明徳,小野賢二郎〉  1.はじめに  2.どのようなときに疑うか  3.両側の側頭葉に脳梗塞を発症し純粋語聾となった症例  4.聴覚性失認の検査の進め方   A.純音聴力検査と語音聴力検査   B.失語症検査   C.環境音認知検査   D.失音楽症の検査  5.聴覚性失認の分類  6.聴覚性失認の特徴   A.皮質聾   B.純粋語聾・言語性聴覚性失認   C.環境音失認・環境音認知障害   D.感覚性失音楽症  7.電気生理学・画像的検査

Chapter 7 構成障害 〈鐘本英輝,數井裕光〉  1.はじめに  2.症候の概念,分類,症候を起こす疾患,病巣対応   A.構成障害の概念   B.構成障害の病巣と疾患  3.検査方法   A.手指行為の模倣   B.単純な図形模写   C.複雑な図形模写   D.視覚認知の全般的な評価   E.組み立て課題  4.症候の実際  5.最近の研究  6.おわりに

Chapter 8 視覚性失認,カテゴリー特異的失認 〈成田 渉,西尾慶之〉  1.はじめに  2.視覚情報処理の神経生理学  3.視覚性失認   A.統覚型(知覚型)視覚性失認   B.連合型視覚性失認   C.統合型視覚失認   D.カテゴリー特異的視覚性失認  4.視覚対象認知の評価   A.主訴,病歴の聴取   B.診察   C.検査  5.症候の実際

Chapter 9 半側空間無視 〈太田久晶〉  1.はじめに  2.症状の概念,分類,症状を起こす疾患,病巣対応   A.症状の概念   B.症状の分類   C.症状を起こす疾患   D.病巣対応   E.鑑別症状  3.症候の実際  4.検査方法   A.ベッドサイドでの評価   B.机上検査   C.ADL評価  5.最近の研究   A.パソコンを用いた検査方法   B.線維連絡に基づいた病巣分析

Chapter 10 地誌的失見当 〈菊池雷太,赤池 瞬〉  1.江戸一目図  2.地誌的失見当  3.地誌的失見当にかかわる脳部位  4.楔前部と後部帯状回  5.評価方法  6.症候の実際  7.まとめと今後の展望

Chapter 11 病態失認 〈小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念  3.片麻痺に対する病態失認  4.盲・聾に対する病態失認(Anton症候群)  5.失語に対する病態失認  6.認知症における病態失認  7.病態失認の病態   A.全般性認知機能障害説   B.感覚入力遮断説   C.注意障害説   D.運動企図仮説  8.検査方法  9.最近の研究

Chapter 12 記憶障害 〈渡部宏幸,西尾慶之〉  1.はじめに  2.記憶・記憶障害の分類   A.保持時間の長さによる記憶の分類:短期記憶と長期記憶   B.記憶の内容による長期記憶の下位分類   C.時期によるエピソード記憶障害の分類  3.エピソード記憶の検査方法   A.記憶を評価する際の注意点   B.簡易評価   C.精査用記憶バッテリー  4.エピソード記憶障害の神経基盤と関連病態   A.海馬およびその周囲の内側側頭葉構造   B.間脳   C.前脳基底部   D.脳梁膨大部後域  5.その他の記憶障害   A.Alzheimer病における記憶障害   B.側頭葉てんかんにおける記憶障害   C.解離性健忘   D.作話  6.症候の実際  7.最近の研究   A.エピソード記憶の情報処理における海馬内の機能的差異   B.場所細胞(place cells)と格子細胞(grid cells)

Chapter 13 認知症 〈津本 学,小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念,分類   A.症候の概念   B.認知症の分類  3.検査方法   A.問診   B.スクリーニング検査  4.症候の実際   A.記憶障害が目立つ認知症   B.注意・遂行機能の障害が目立つ認知症   C.幻視が目立つ認知症   D.言語の障害が目立つ認知症   E.行動障害が目立つ認知症  5.最近の研究

Chapter 14 脳梁離断症候群 〈東山雄一,田中章景〉  1.はじめに  2.症状の概念,分類,病巣対応,症状を起こす疾患   A.症状の概念   B.症状の分類と病巣対応   C.症状を起こす疾患  3.症候の実際  4.最近の研究  5.おわりに

Chapter 15 前頭葉症候群 〈船山道隆〉  1.両側前頭前野損傷例の特徴  2.症候の概念,病巣対応,症候を起こす疾患   A.前頭葉は行為・行動に関わる   B.背外側部,内側部,眼窩部にそれぞれの機能がある   C.症候を起こす疾患  3.症候の実際   A.背外側部損傷   B.内側部損傷   C.前頭葉眼窩部  4.検査   A.遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)   B.ウィスコンシンカード分類検査   C.Frontal Assessment Battery(FAB)   D.Trail Making Test   E.Stroop Test   F.流暢性課題  5.最近の研究

Chapter 16 神経疾患に関連する情動障害および行動異常 〈馬場 徹,小林俊輔〉  1.はじめに  2.症候の概念と分類  3.症候を起こす疾患,病巣対応  4.症候の実際  5.情動障害・行動異常の検査法  6.最近の研究

対象読者

特に明記されているわけではないがおそらく対象にしているのは精神科医神経内科医のみならぬ更に広い範囲の医師、医療者を対象にしている。本文でも「おそらく多くの医療者にとって、日本語の不自由な外国人よりも失語を持つ方に接する機会のほうが多いはずである。外国人に対する医療対応を学ぶことと同様に、失語についての基本事項を理解しておくことが重要と言えるのではないだろうか」p16 と書かれている。京都人的な文脈で行くとかなりの皮肉交じりの言い方であることを邪推するが、それはまぁ考えすぎだろう。僕が京都の毒気に当てられているだけかもしれない。

骨太度

当然ながらそこそこ骨太。とはいえ臨床の場での実践を前提に書かれているので割愛するべき部分はそうと分かる形で割愛している。だから、実際の臨床には反映されない小難しい話の泥沼にはまることがないようにはなっている。

読んだ目的

冒頭で書いてしまった気がするが、そろそろ高次脳機能障害について整理したくなったからである。なんとなく神経内科の領域だと思っていたのだが、精神科の世界にもがっつり絡んでくるものであった。そのことに遅ればせながら気づき、改めて勉強しなおしているというわけである。高次脳機能障害はなんとなくの見よう見真似のふんわり評価は誰でもできるが、その奥にある障害のシステムを理解するには、その本質を汲み取れねばならないと言うことが本書でも書かれている。なんとなくに満足せず、治療的に意味のある評価ができるようになりたい。

感想

もちろん冒頭で述べたように必要に迫られて買った「実用書」であったのだが、読み物としても非常に面白かった。 第2章は失語症なのだが、その序盤で「言語の成り立ちについて」の説明があるのだ。これはおそらく内容的にソシュール言語学を下敷きにしたものであると思われる。最近僕は「ゆる言語学ラジオ」にはまっておりとてもタイムリーであった。こういった言語そのものへの洞察を踏まえた上で、失語症が語られるのは物語としてのダイナミズムがあるし、説明としてわかりやすい。 ある行為が出来なくなったとき、その内部で何が起こっているのか。それをベッドサイドレベルで評価し、一方で検査でも定量的に評価する。その橋渡しになる内容であった。ベッドサイドで生の患者がいる場でそこで何が起こり何が「起こせなかった」のか。それを解剖学的にも、歴史背景的にも多くの側面から解説しながらもくどくなく。可もなく不可もなく、手ごたえのある形で解説してくれている。 それまでなんとなく使っていた様々な用語に関して簡潔な解説がされており、それを拾い読みするだけでも十分価値がある。

フック

認知機能の評価についての解説と言えばそれぞれの項目についての無味乾燥な解説が羅列されるイメージがないだろうか。 本書では救急室や外来それぞれの場面に応じた認知機能評価について解説がある。p11- もうこの時点で本書がいかに実践の書であるかがわかるかと思う。  まず初めに認知機能のドメインを整理し、それぞれの影響関係を解説した後に、その関係性をもとに場面に応じた認知機能の評価項目が解説される。なぜそれらが優先されるのか、根拠を持った上で評価項目の取捨選択ができるのだ。NIHSSの検査項目ってそういう理由でああなってたのか!という発見がある。 ちなみに、救急で優先的に評価すべき認知機能のドメインは、汎性注意の障害/意識障害・言語・視覚認知 であるとされる。その根拠は是非本書を読んで確認してほしい。

僕にとって想定される本書の内容を使う場面

1度読み物として読んだ後、おそらく臨床の場で実際に項目ごとに参照してゆくことになると思われる。

エピゴウネ - song and lyrics by Natsuko Nisshoku | Spotify