訪問者
ピンポン
インターホンが鳴る。
あいにく俺はamazonも使ってないしこの部屋に訪れる友人もおらずやってくるのは訪問販売かNHKか宗教勧誘だ。
土曜の朝だし宗教勧誘かもしれん、などと考えていると、扉の向こうから女の声がした。
「すみませーん」
若い女の声だった。暇つぶしにおしゃべりするのも悪くないかもしれない。そう思った俺は扉を開けることにした。
「なんですか」
扉を開けるとそこにいたのは20代前半の女だった、女だったが、服がボロボロで髪がボサボサだった。目だけは異様に輝いていた。やはり、宗教勧誘か。
「やっぱりいらっしゃったんですね!貴方は神の声を聞いたことがありますか!?」
予想通りなことを言い出した。しかし、予想以上に「キマッて」いる女の姿に萎えた俺は扉を閉めようとした。
「貴方に読んでいただきたいものがあるんです!!」
そう言いながら女がカバンから出した分厚い本は、聖書ではなかった。
「電話帳?」
思わずそんな声がこぼれた。
女がカバンから出したのは昔懐かしい黄色の電話帳だった。
「そうなんです!!神の声を電話で聞けるんです!!」
「へぇ」
案外いい暇つぶしの「おもちゃ」になるかもしれないと思ったので話に乗ることにした。
「神様なんだったら、直接頭に話しかけて来るもんなんじゃねぇの?」
薄笑いで俺が言うと女は待ってましたとばかりに笑顔で説明し出した。
「それがですね!最近の人間は感度が悪くなってちゃんと受信できなくなってるんですよね!その分余計に通信のコストがかかっちゃうんです!」
「そんなスマホみたいなシステムなの?神の声って」
「いまなら神の声を聞く対価は後払いでも結構なんで、無理せず払える月々の分割プランもあって」
「ガチでスマホの料金プランかよ、てか対価って何払うんだよ、金か?」
思わず突っ込んだ俺に女はキョトンとした顔で答えた。
「なにって、神に払う対価は献身に決まってるじゃないですか」
これは、妄想野郎かと思いきや新手の宗教勧誘なのか?と思ってると女が言った。
「今ならお試しの格安プランで神の声を聴けるんですよ!」
「へー、試し聞きできるんだ、聞けるもんなら聞いてみてぇもんだな」
なんて適当に受け答えすると、ズボンのポケットのスマホが震え始めた。
「な」
「ほら、神からの着信ですよ」
とても穏やかな笑顔で女が言った。背中に嫌な汗が伝うのを感じつつ、俺は何故だかスマホを見ずにはいられなかった。
非通知だった。
「もしもし」
「 」
俺はその声を聞くとスマホを閉じて荷物をまとめ始めた。
「聞けたみたいですね、聞いたからには献身として私と一緒にこの神の声を広めましょう!貴方の分の電話帳も用意してます!」
俺は確信と使命感に満ちていた。