木曜レジオ

恥の多い人生ですね(達観)

タイムトラベル術式

「やり直したかったんですよ」

ニヤニヤと男は笑いながら言った。

「何がおかしいんだ!お前は自分の恋人殺したんだぞ!」

取調室に刑事の怒号が響く。

「落ち着いてくださいよ、話しますから刑事さんの煙草の匂い嗅がせてくれません?それ好きな銘柄で」

ニヤつく男の目の異様なまでの輝きに少し圧倒されながらも刑事は心を落ち着かせた。

スーツの内胸からタバコを取り出しつつ質問した。

「なんで殺したんだ、痴話喧嘩のもつれ、じゃあないよな」

 

刑事が目撃した事件現場は壮絶の一言だった。現場は犯人とその恋人同棲していたアパートの一室だったが、男自身の通報で駆けつけた刑事が扉で開けた向こうで見たのは壁や床に血で描かれた異様な文様と取り出された臓物がなんらかの規則に従うかのように幾何学的に並べられた光景だった。

男はそんな部屋の中心で何かに祈るように佇んでいた。

 

刑事は確信していた、勘でしかないがこの男は狂ってはいない。

何か意味があってあんなことをしたんだと。

 

「刑事さんはタイムトラベルって信じます?」

「は?」

まるで殺人なんかなかったかのように、タバコを弄びつつ普段何度もしてる雑談であるかのように男は切り出した。

「僕はタイムトラベラーなんですよ、何度も旅してきた、方法を見つけたんです」

「何言ってんだお前、じゃあの部屋のがそれだっていうのか」

いきなりな話で刑事は困惑した。

「ええそうです」

男は相変わらずニヤついたままだった。

「お前の妄想を信じる気などさらさらないが、だとしたら失敗したのか?現にお前はここにいるわけだし」

刑事の問いに男が笑い声をあげる。

「いえいえ、成功も成功、大成功ですよ!刑事さんのイメージするタイムトラベルってやっぱり猫型ロボットのアレですか?でもあんなのタイムパラドックスが起きちゃうじゃないですか、だからありえないんですよ」

「…」

こいつは本当に頭がおかしいのかと刑事は考えを改め始めていた。それと同時に刑事自身が子供の頃sfの小説を読んでそんな話があったのを思い出していた。

「僕が見つけたこの儀式はそれらの矛盾を解決しました。この儀式はですね、僕の意識だけを過去に送ります。」

「…もういい、黙れ、精神鑑定でも受けて減刑されようって魂胆か?」

「おやおや、信じてないですね刑事さん、いつもそうですね」

「いつも?」

さっきから感じていた違和感が刑事の中で膨らんでくる。こいつと俺は初対面のはずなのに、こいつはまるで俺と永らくの知り合いであるかのように話してくる。ただたん馴れ馴れしさとは違う感じで。

「こうして刑事さんに捕まるのももう何度目かな、勝手に親しみ感じちゃってるんですよ。それにほら、刑事さんがタバコ持ってるのとか僕知ってたでしょ?」

「「そんもの、タバコを吸ったら匂いぐらいするだろうが」」

男は完璧なタイミングで刑事の言葉にかぶせてきた。

「まぁつまりこの世界は僕からしたら捨てられた世界線とでもいうべき世界でどうでもいいんですよね。多分今度の僕はもっときっとうまくやるでしょうし、彼女と幸せになると思います」

固まる刑事をよそに男は話し続けた。