木曜レジオ

恥の多い人生ですね(達観)

待ち人

 嵯峨原から連絡があったのは三日前のことだ。

 嵯峨原は、大学でも有名な変人だった。ブームも終わって40年以上経つ21世紀になってもまだUFOや宇宙人の実在を本気で信じていて、しょっちゅう怪しげなオカルト雑誌を見せられた。ただまぁ興味のない人間に無理やり話を振るやつでもなかったし、UFOオタクなことを除けば普通にいいやつで案外友人も多かったのだ。興味はないでもなかったので色々話は聞いたが正直ほとんど聞き流していたので焼きそばのUFOが「うまい」「太い」「美味しい」の略だとかいうしょうもない話しか覚えてない。

 大学卒業後も時々遊んだりはしていたのだが最近は疎遠だった。そんな奴からいきなり電話がかかってきた上に内容が「紹介したい人がいる」だったので面食らった。それ以上の内容ははぐらかして教えてもらえなかった。恋人かマルチ商法のやばいやつか。そんな考えもよぎったが、あいつのあの上擦るような早口は決まってUFOの話をしている時のものだったことを思い出して遭う約束をしたのだった。

 「紹介する、彼女が俺が待って待って待ち焦がれた存在だ」

そんなふうに嵯峨原は熱っぽい目で話し出した。嵯峨原に指定された個室居酒屋に行くと、待っていたのは嵯峨原と見知らぬ美少女であった。

「まじかよお前、彼女自慢かよ。てか年齢とか大丈夫か?犯罪じゃねぇの?」

「違う違う、話を聞け」

思わずデリカシーのないことを俺がいうと嵯峨原は大慌てで訂正してきた。

「彼女は宇宙人だ」

 5日前の深夜、嵯峨原は日課である近所の山で宇宙人を召喚する儀式を行なっていたらしい。

「まだそんなことやってたのか?」

「ライフワークだからな」

そんな時、いきなり目の前に、なんの前触れもなく2メートルくらいの大きさの金属の塊が出現したらしい。下半分は土に埋まっていた、というよりは元からあった地面が消えてその代わりに金属が出現した感じであったらしい。突然の事態に混乱した嵯峨原であったが瞬間に彼は理解した。それがUFOであることを。

「UFOじゃねぇじゃん飛んでねぇじゃん」

「そんなことはどうでもいいだろ!」

長年待ち焦がれた存在に出会えた興奮を抑えきれない嵯峨原が立ち尽くしていると、金属の塊に穴が開いて中から粘性のスライムが出てきたという。それはしばらく嵯峨原の前で震えていると徐々に嵯峨原の姿になり、片言の言葉で喋り出したらしい。

「ヨバレテキタ」

 

「まぁそれから色々あったんだ。元々彼らの謎テクノロジーで俺らの言葉はある程度学んでたみたいだけど。より良い見た目も提案したりしたんだ」

「完全にお前の趣味じゃん」

そこまで話して無表情に話を聞いていた「彼女」に目を向ける。

「概ねそのような感じだ」

見た目の華やかさからは想像できないくらいに冷たい声だった。

「私、というべきなのか我々というべきなのかは曖昧だが、私はここより遥か遠いところからきた。」

そう言いながら彼女の人差し指が天をさすと同時にその先端がドロドロと溶け始める。

「まじなのかよ」

「おおまじだ。」

嵯峨原は満面の笑顔だった。

「な!!マジでいるんだよ!ワープして来たんだってよ」

宇宙人が実在した衝撃よりも彼の笑顔を見れてよかったな、という感情の方が正直大きいかもしれない。正直宇宙人がいようが居まいが俺の生活に関係ねぇしな。

「そういうところがお前の昔からつまらんところだ」

そう口を尖らせる佐渡原を見て懐かしい気持ちになりつつ「彼女」に質問した。

「しかしなんだって地球外生命体がこんな星に?」

「呼ばれたからだ」

「嵯峨原にか?」

いいや、と彼女は首をふった。

「君たちの基準で言うともう40年以上前の我々を呼ぶ声を聞いてね」

「俺たちの先達者の声は聞こえてたんだよ!」

嵯峨原がロマンを感じた目を瞑り頷く横で俺は少し嫌な予感がした。

「声を聞いたのか?」

「そうだな。君たちレベルの知的生命体が宇宙に向けて発する思念を感受したと言うべきか」

「…それってあんたらの超能力的なやつか?」

「いや、最近開発された君たちでいうところのテクノロジーというやつだな」

「おい、どうしたそんな怖い顔して」

嵯峨原が俺の異変に気づいた。

「確認だがあんたらに征服の意思はないんだよな」

「ない、呼ばれたから来ただけだ。」

「あんたはあんたらの代表者か?」

「違う。我々はある銀河系に広く偏在し、知識を緩やかに共有しているがある程度独立し、徐々にその数を増やす存在だ」

「なるほど。じゃぁ聞くが、あんたのお仲間が、あんたと同じように声を聞いたらどうすると思う?」

「来る」

その瞬間店の外から叫び声が聞こえた。

「なんだ?」

呑気な嵯峨原を置いて俺は店を飛び出した。

そこには人間ごと地面を抉り取った金属塊が存在していた。

当然金属塊に体の左半分を削り取られたサラリーマンは死んでいた。

「地球の奴らは随分何度もあんたらを呼んでしまっていたらしいんだ」

「そうなのか。であれば、来るぞ。」

呼ばれた回数だけ我々は。

目の前の情景に何も感じていなさそうな宇宙人は静かに告げた。

「君たちはもはや孤独ではない」