木曜レジオ

恥の多い人生ですね(達観)

もく読日記 7冊目  まちあわせ

    駆除って言葉知らねぇのか!!
じゃあ危ない時にはいつでも助けてくれる?
           諦めては駄目です
 戦うよりも逃げた方がいいんです

異人類の虐待は社会問題になってるんですから!

ウアカリはね世界一進化した人類って言われてるのよ

   構うな下等なサル

          穏やかで…幸福な…

来る来ない来る


病院どこ?   九州…片道3万円


      俺待ってるよ


大事な決断ってのは
 元気な時にしなきゃ間違っちまうぜ

         今すごく幸せなんだ

これが住人達の総意なんです
            ここは僕の巣だ


読んだ書物の雑な感想や考察を綴るこのコーナー。
今回は多分初めてになる漫画の紹介。

前回はこちら
structural-alien.hatenablog.com


最近はシリーズものを追う体力がなくて、短い漫画シリーズとかが好きですね。

そんな中で見つけたのがこちら。

田中雄一 まちあわせ

あらすじ

以下Amazonの説明文から引用

虫、類人猿、巨獣…異生物と人間が織り成す、生存のドラマ! 雑誌発表時に大反響を呼んだインパクト抜群の傑作SF短編群、ついに単行本化!! 新種の昆虫の人間界への侵略『害虫駆除局』、人間と同じように進化してきた類人猿との共存『プリマーテス』、怪獣が闊歩する超未来『箱庭の巨獣』…。そして表題作『まちあわせ』は、予想不可能な壮大なイメージと感動へと導く究極のラブストーリー! 期待の新人作家、初の作品集。

大雑把な感想

うお〜SF漫画読んだぜ〜!となる。メカニカルな意味でのSF要素はほぼない。設定と物語の力での勝負。我々の生きる現代よりちょっと先か、いくつかのことが異なっている世界が舞台。
大きなテーマとしては異種族との共存/競争。そして継承の物語なのだろう。
短編ごとに異なる異種族との距離感、継承の仕方。それぞれにグロテスクで暖かく切ない。
グロテスクなクリーチャーとか人類の滅びとかそう言うのが好きな人にはぜひ読んでほしい作品。
以下はそれぞれに関する感想と考察に満たない何かを書いていこうと思う。

以下ネタバレあり。

害虫駆除局

主人公小野崎が呑気すぎる。いやまぁ最終的にはあんなことになるんですけども。
この物語における異種属、十二脚虫との関係性は「競争」だ。そして人類は圧倒的な劣勢。
当初の小野崎はそのことに無頓着でなんなら「保護しなきゃ」くらいのある意味で驕った視点で考えている。
物語の緊迫感も主人公の心情変化に合わせて徐々に逼迫したものになってゆく。それは小野崎の変化であると同時に人類が追い込まれてゆくその変化をも我々読者が追体験させられているのだ。仕事がうまくいかないというどこか牧歌的でありつつも本人的には切実な悩みがありつつも、それらを虫たちが飲み込み失われてゆく日常と余裕。
そしてこの物語の「継承」は長沼から小野崎への十二脚虫への殺意である。
しかしこの物語において長沼は最終的に殺意を放棄する。
小野崎が虫たちの脅威に接し直面化した「人類社会を脅かす虫という現実」。しかし長沼はさらに進んで「虫たちに滅ぼされつつある世界という現実」に対峙しているのだ。小野崎には未だ現実が見えていない。まだ絶望し切れていないのだ。しかしどこかで理解はしている。きっと小野崎もいつかそれを理解し受け入れることになるのだろう。

プリマーテス

異能力バトルがあるのでこの話大好きです。男の子なので。
人類と異人類。人間と少し異なった進化を遂げた「サル」たちがいる世界。猿の見た目はおそらく意図的に「分かり合え無さそう」にデザインされている。
ウアカリは、おばさんの解説によれば赤ちゃん工場で子供が生まれているのに、子供への深い愛情表現が描かれるのが細やかで大好きです。
人類が傲り高ぶり霊長の王であると思っているが実は異人類の中ではさらに恐ろしい奴らがいる、というのは害虫駆除局の小野崎の驕りの描写に通じるものを感じる。
息子と信じて育てた男児が「托卵」されていたことで投げやりになった浅川が主人公。
この物語の異種属はいうまでもなく異人類。しかしおそらく浅川の「息子」である陽介もまたある種の異種属として描かれているのだろう。
血のつながりがないと分かった途端に冷たく接する浅川は「サイテー」な人間として描かれる。浅川の気持ちに共感はしないものの理解はできるものだ。裏切られたと思っただろうし、なんだったんだという憤りもあったのだろう。
この物語における「継承」はウアカリの最後の思い出が浅川を通じその親へと渡されたことでもあり、浅川の父親への思いと、浅川と陽介の親子としての絆が再構築され、親子三代にわたる愛情が伝わって行ったことでもあったのだと思う。

まちあわせ

いやーいい話だった。
庄太郎いいやつすぎだろ。理解のある彼君最終レベルじゃん。
言うまでも無く異種属は由香里で継承されたものは由香理の母親から渡され、それを受け取った由香理と庄太郎の愛情だ。
母の愛が強すぎる。この話についてもう何を言っても野暮だから2人の愛の深さを称えておくのみにしよう。
たこ焼き屋の親父の「大事な決断ってのは元気な時にしなきゃ間違っちまうぜ」ってセリフが良いよね。

箱庭の巨獣

大怪獣バトルがあるのでこの話大好きです。男の子なので。
この物語の異種属は巨獣でこの物語は共存の物語だ。しかし同時に競争の物語でもある。継承されるのは「巣」であり「巣への想い」だ。
切ねぇな。康美は嫌々ながらも腹括って巨獣になったのに、そのわずか21年後には全部ひっくり返して狒々を受け入れるだなんて。
結局武和が「正しかった」のだ。
あまりに勝手だしやり切れない。しかも自分の息子の嫁に殺されるとは。
弱いながらも必死で巣を守るために戦った康美の体はボロボロで片目も失われている。ずっと負けていたのだろう。でも自分以外に守れる人間もいないから、康美は戦うしかなかった。そんな境遇なのに康美はうっすらと微笑むのだ。先代の麒麟が康美に笑いかけたように。
集団に振り回される若者。それはもしかしたら国家に振り回され兵士となる若者の寓話であったのかもしれない。