木曜レジオ

恥の多い人生ですね(達観)

殺し屋1をスキマというサイトで一気読みしてみた

殺し屋1という漫画を一気読みしてみた。のでそのレビュー。

[全巻無料漫画] 殺し屋1|スキマ|全巻無料漫画が32,000冊以上読み放題!

上記サイト、スキマさんで2019年3/31まで全巻誰でも無料読み放題である。全10巻71話。 3時間くらいで一気読みしてしまった。

あらすじ

あらすじ Amazonより引用

元いじめられっ子の殺し屋・イチ VS ドMヤクザ・垣原。壮絶な殺し合いが幕を開ける!!気弱な青年イチは、心の内に強烈なドS性を秘めている。一方、命を狙われる事に悦びを覚えるドMヤクザ・垣原。宿命の二人が出会った時、新宿の街が血に染まる!!

ネタバレなしの感想

まずはネタバレなしの感想から。

取り敢えずグロいです。と言っても所謂GANTZとかの綺麗なグロさとは違って非常に痛そうなタイプのグロさです。割とグロい映画とかスプラッタものが好物なぼくでも痛そうな描写は苦手で、そこはある程度耐性が必要になると思います。まぁでも読んでるうちに慣れるかもしれません。 これ、ジャンルは何になるんですかね上記のあらすじ読んだ人はどういう漫画だと思いましたか?ヤクザもの?

これはラブコメです。

冗談抜きで。ある1人の男が待って待って待ち焦がれた運命の出会いを果たし、そして追い求める、そんな話です。

この物語がラブコメであることがはっきりと分かるのは割と物語も進んでからなので、そこに至るまでは所謂一般的なアンダーグラウンドもの、クライムサスペンス的なノリで楽しめます。はみ出しものたちがヤクザから金を奪って戦争ふっかけるあたりはオーシャンズ11とかそう言った雰囲気で楽しめます。

んで、作中でこの物語がラブコメであるあることが明示されてからは一気に物語が進んでいきます。そこからのカタルシスは他の漫画では味わえないかなり独特なものになると思います。

その独特さを成立させるのは主人公の1(イチ)と呼ばれる殺し屋もそうなんですが、もう1人の主人公のヤクザ・垣原という男のキャラクターですね。

以下、ネタバレありの感想で語っていきたいと思います。読後、すでに既読の方が呼んでください。まだ読んでない方は読後に会いましょう。

ネタバレありの感想

読みましたか?

読みましたね?

取り敢えず、お疲れ様です

いや、めちゃ面白いんですけど、読むのに妙にカロリー使う漫画じゃないですかこれ?笑

拷問シーンの所為ですかね?

それとは別にこの物語が「類型のない」物語だからってのもあると思うんですよね。

いや、まぁ変態バーサス変態というコンセプト自体は珍しくはあってもそこまで突飛ではないのかもしれません。ですが垣原ですよ、この男。ただのありきたりなドMキャラではない。

まぁ、僕が大好きな垣原について語るより前に一応主人公であるイチについて語っておきましょうか。

主人公イチ

まずキャラクターデザイン。蹴り技主体で低コストな仮面ライダーのなりかけみたいなプロテクターと背中には亀の甲羅みたいな装甲。割と立ち姿はかっこいいですし、カポエラじみた回し蹴りの時に背中の1の字が見えるのはセンスいいなぁと思います。 過去のイジメのトラウマからおかしくなってしまった青年であり、劇中成長し始めますが、結局ジジイの誘導で変態として完成します。

なぜジジイは大人になれと言ったのか

僕が読んでてわからなかったのは、殺し屋としての1は絶対成長しない方がキリングマシンとして完璧なのになんでジジイは途中で大人になれ的なことを言ってたのか、と言うことです。最後には結局ジジイが裏で糸引いてイチを思い込みの激しい変態として完成させていたことが判明するわけですし変なアドバイスのせいでスランプに陥ってたりしててコイツ何がしたかったんだ?となりました。

ただまぁ読んだ後に思ったのはそもそもこのジジイも妄想というか妄執に囚われてたから合理的な立ち振る舞いは期待すべきではないのかも ということです。ですがそれでは味気ないのでもう少し邪推すれば、途中ジジイがイチに対して「本当にお前をみてるとイラつくなぁ」みたいな発言をしてたので、割とイラついて当たってたってのが本当のところなんですかね。読んでた時はジジイ仲間なのにこんなことを言うのか?と違和感を覚えたのですが、その後登場したヘタレ自称ヒットマンの金子もイチにイラつくなぁと言ったんですよね。彼の「イラつく」は親近感の裏返しだったんでジジイのもそんなもんだったのか、と思って違和感を消されてしまいました。作者の計算なのかはわかりません。ですがまぁ、ジジイがただの良いジジイではない伏線ではあったのかもしれません。

舞台装置

この物語の前半は一見、イチの成長物語に見せかけて進められていきます。セーラちゃんぶっ殺した時は「あーありがちなアレね、暴力は何も解決しないよね虚しいね」みたいな展開かと思ってたんですけど、後にその時にイチがとんでもないことを考えてたのが明らかになるわけです。「セーラちゃんも僕にイジメられたがってたんだ!」と。ここに来て一気にイチの本当の意味での異常さが滲み出てくるわけで、若干イチに感情移入してた読者の心を引き離しにかかります。 彼は徐々にキャラである以上に物語の舞台装置として機能していくことになるのです。

垣原という男

それまで感情移入しかけていた主人公に置いてけぼりにされた読者に対して主人公に変わって内面が詳しく解説されて、読者の共感を得る主人公として改めて立ち現れるのが垣原という男です。

はるか/コミケお疲れ様でした on Twitter: "殺し屋1読んでたんだけど、ここ最高にFate/Yakuza Nightで運命の出会いだった… "

垣原という男、初見のインパクトも凄まじく、デザインも見ただけでヤバいと分かるデザインでよくもまぁこんなのこの世に生み出したな、と思います。

前半だけ見てると垣原、完全に北野武監督の、アウトレイジの世界観の住人で、暴力の権化として描かれるわけですけど、彼の暴力の「起源」としてのドMとしての方向性が深められていくと物語の様相が変わってきます。

そもそも、おかしいのは垣原組の組員が一気に減る場面です。ヤクザモノなら組員の大量粛清とかはマシンガンぶっ放したりとかしてむしろ見せ場であって、ある今現実的なんですけど、組員の勧誘による引き抜き、なんてのはヤクザモノとしては王道ではないんです。そう、ここのあたりからこれはヤクザモノではないし、垣原という男の本質もヤクザではないよ、と言うのがどんどん匂わされてくるわけです。

垣原組に残った4人を一人一人見ていきましょう。ドMの垣原。俗人の高山。エセヘタレ口だけヒットマンの金子。死体捨てるついでに逃げた抜け時伺ってたおっさん。こいつら誰一人キャラクターの芯がヤクザじゃねぇんですよね。まぁ強いて言えば高山が掘り下げられてない分相対的にヤクザっぽいと言えばそうなんですけど、彼は例外的にジジイに殺されますしね。

ブコメだった

この物語はイチの成長譚でもない、垣原によるヤクザモノでもない、じゃあなんなんだ!

ブコメだ!!

ってのが示されるのが物語の後半というかクライマックスです。

クライマックスの廊下での対峙。ついに垣原はスーツもハラリしてしまってヤクザとしてのキャラデザインはほぼ無くなります。ヤバい顔の亀甲縛りされたおっさんです。

ドMキャラの敵役、というのは割合よく見ます。主人公の攻撃を食らえばくらうほどに気持ちよくなる感じの。んで最後には主人公の猛攻に気持ち良さどころではなくなってしまってまめてくれー!などという、もしくは最後までその絶頂の中で死んでいく。

垣原はどちらでもありません。イチという絶対的な思いやりのない暴力に出会うことで初めて性的快楽の入り込む余地のない、生命の危機としての絶望に出会います。それからは一切の表情から余裕が消えます。遊びでドMやってるんじゃねぇって感じです。逃走も真剣そのものです。この運命的な出会いが自らの死によって終わってしまう!その絶望で埋め尽くされています。だから、まだ死なないという希望に向かって全力で逃走します。

絶望を楽しむ?そんなのは垣原にとっては本当のドMではないのです。絶望の中にドップリと浸かり、骨の髄まで絶望に浸って死ぬ。それこそが彼にとっての絶望であり、待って待って待ち焦がれた必然な訳です。

最後墜落してゆく瞬間のあの顔、最早絶望以外の何もありませんでしたね。きっと成仏できることでしょう南無南無。

ラスト

殺し屋1の感想見てるとラストに対する言及も多いです。ただ、まぁラストのあの表情を、ただの泣き虫になったと見るか、殺し屋としてのイチが帰ってきたととるかは読者の判断に任されていると思います。

僕としては、あのあとヤクザ?を蹴り殺したイチ帰還エンドだと思ってます。

その方が楽しいし。あの泣き顔は全盛期のものとして見ることはできるんじゃないでしょうか。

ただ、まぁあれほど異常だったイチが可愛い女の子に普通にフラれて普通にしょげて、普通の笑顔ができるようになってたのは、残念なようでいて人間のしなやかさを感じますし、逆に言えば、「戻る」こともまた容易いのではないかとも思います。

以上長くなりましたが、殺し屋1、のレビューでした。